ホテル・ルワンダ 教条的に思考停止

http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20060304
僕たちは、自由なはずなのに、結局、教条的な思考に囚われてしまう。エライ人がそういっているのだから、正しいはずだという例のアレだ。誰も疑問をもったり、訂正しようとはしない。

それが、本当にエライ人ならいいのだが、(良くない)ごく普通のどこにでもいるような普通の人の英雄的な活動を賞賛し、その思想を受け継ぎ我が物とする(いま、書いててゾッとしました)のは、確かに必要なことだ。確かに、ポールさんはすごい人だと思うけど、本当にそんなことでいいのだろうか?

実は、ホテル・ルワンダについては議論すべきことがたくさんある。その一つが、テーマであることの「隣人愛」なんだが、そもそも、隣人愛というのが何かというところで、根本的に誤解がある。

この、隣人愛というのは、確かにそういう意味もあるのだが、キリスト教世界では、地理的に近所に住んでいる人とか、隣の人とかそういう意味ではない。お隣さんは、もちろんお隣さんなのだが、そのお隣さんのお隣さんとか、そのまたお隣さんもお隣さんで、「な〜んだ。よく考えたら、全人類みなお隣さんじゃないか!」てなことなんだよ。

だから、アイルランド人の監督も、遠いアフリカのお話じゃなくて、お隣さんの話を描いた。主人公のポールも、最初は見捨てるつもりだったお隣さんだけを助けることにしたら、いつの間にか成り行きで千人以上もお隣さんが膨れ上がってしまった。

この隣人愛ってのは、日本のお隣さんのことだけを考えろってことじゃなくて、アフリカもそれ以外もお隣さんなんだよゴルア〜。

つまり、このルワンダの事件を、過去の日本の出来事として観ても意味がない、のだ。

いま、ふと気づいたのだが、これはいわゆるネット用語的に言うと斜め上なのだろうか?

  • お隣さんの恐怖

でまあ、何が怖いかって言って、お隣さんが実は怖いってことになったら、そりゃ、怖いわな。なぜなら、本当に近所に住んでいる隣人ってのは、自分とは何の違いもない人たちである可能性が高いからだ。だから、誰が“異者”なのかわからないって状況の方がぜんぜん怖い。

町山氏は引用する形で、「“異者”への脅威」が虐殺の原因なんだというが、それは単なる思い込みで、実は明確に違っていた方が虐殺というのは起こりにくいのだ。アフリカでは白人が殺したのようにもはるかに多くの数の黒人が黒人によって殺されたし、白人と黒人が同居している南アフリカの方が他のアフリカ諸国よりも安定している。だから、僕はこの最初のエントリーから何回も、「“異者”への脅威」が虐殺の原因だってのは間違っていると指摘しているが、わかってもらえないのなら、わかってもらうまで繰り返すしかないのだろう。

なんでかっていうと、実は殺すべき敵ってのは、三つの段階がある。


まず、第一の段階ってのは、「敵がいる」って段階。
「司令官!敵がいます!」「そんなことは知っておる。」「敵が攻めてきたらど〜すんですか?」「攻めてきたら殺せばいいじゃないか。敵がどこにいるかは知っているし、だから、われわれの陣地をそこにおいているのだ。だいたい、敵以外は全部味方だから、安心だ。」

殺すべき敵があらかじめわかっていて、それらが自分たちと明確に違っている場合は、そんなに怖くないんだな。そのうち、殺せばいいと思っているうちに、いつの間にか時間がすぎる。

この戦争は敵を全部殺すか、敵が降伏すれば終わるので、そんなに怖くない。

では、第二の段階。「敵が誰かわからない」

「司令官!敵が誰かわかりません!」「何をそんなにうろたえている?」「敵がどこかにいるらしいのですが、どこにいるのかわかりません。どこに陣地を作れば良いのでしょう?」「それなら、味方以外を全部敵だと考えて陣地を作ればよい。」

これもそんなに怖くない。味方以外を全部殺せばいいだけだ。これも時間は多少かかるが、そのうち終わる。

最後に、第三の段階。「味方の中に敵がいる」

「司令官!大変です!味方の中に敵が潜んでいます。」「いますぐにそいつらを殺してこい!」「ところが、司令官。その敵は自分たちとそっくりで、しかも、全員味方だと言っています。」
「では、なぜ敵なんだ?」「味方がどんどん殺されているので敵がいること自体は間違いありません。」「それなら、とりあえず、怪しいのを全部捕まえて来い。あとからゆっくり殺す。」
「司令官!あやしいのを捕まえてきました。」「では、あやしいのを全て殺すんだ。」「司令官!敵はこのうち、1人だけで、残りは全て味方なんですよ。」「君はわかっておらんようだな。敵は核兵器を持っているんだぞ。」「しかし、司令官!所持品検査はしましたが、誰も核兵器など持っていません。」
「君はやっぱりわかってない。我々は敵に都市を丸ごと二つも消されてしまった。核兵器というのは勝手に爆発したりしないんだ。ポケットに入ってるわけじゃなくて、遠隔操作で爆発させる。スイッチを押すのは一人で十分だ。そのスイッチも発見してないわけだな?」「はい。スイッチも核兵器もどこにも発見できませんでした。」

「なあ君。その一人を生かしておくと我々全員が確実に死ぬ。あやしくない奴が生き残ってあやしい奴が死ぬのと、あやしくない奴もあやしい奴も全員が死ぬのとどちらがいいと思うか?
つまり、どっちにしてもそのあやしい奴は死ぬんだ。
我々はどっちかを選ばなきゃいけない。つまり、あやしくない奴を残すか残さないかということだ。この戦争は、その最後の一人を殺すまで終わらない。そうしないと我々の全員が死ぬんだからな。