タイのテレビ局

タイのテレビ局というのは、一見してわかりずらいのだが、ほとんどが政府系である。

企業のCMが多いことと,大衆娯楽番組が多いので民間放送と区別できないのだが、実際には政府の傘下にあると考えてよい。

日本のNHKが公共放送として、政治的には中立性(実際にはそうともいえないけれども)を保つように求められているのとは大きな違いがある。

これは、中国の放送局が官営であり、官営企業の宣伝媒体になっているのと同じで,タイの場合は官が企業を所有している例が非常に多いからだ。

官営そのものの場合もあるし、官が私的に企業を所有している場合もある。日本の公務員が兼業を禁止されているのに対して,
タイでは公務員の給与水準が低いこともあって、官が副業で企業を経営していることが一般的である。

タクシン首相が富豪になったのも、警察官僚時代に副業をしまくったためである。ようするに、タイでは官業と民業の境界が曖昧なのである。

タイ唯一の非政府系放送局であった、itvがタクシン系企業に買収されたことにより、表向きは民間放送局でありながら、実質的にはもっとも政府よりであるという、奇妙な現象が起こっている。

反タクシン連合の集会を中継する際にも,itvがわざわざ後方から広角レンズで写して,集会のスローガンや集会参加者がなるべく写らないような工作をしているのがその一例である。

ところが、純粋な政府系放送局の方が望遠レンズで狙って集会の模様を比較的詳細に伝えているのである。

というのは、同じ政府系と言っても警察と軍といったように、利害が対立している部門があり、警察官僚出身のタクシンに対して,軍が野党的な立場からこれを批判的にとらえているからである。

今回の反タクシン連合の中に軍出身の政治家がいるのもそのためだ。つまり、タイは軍と警察という二大権力の一種の二大政党的な状況になっているのである。逆に言うと軍政の悪,民政の善というような単純な話しでもないということだ。

もっとも、反タクシン陣営に肩入れいているのが、タイランドアウトルックチャンネルというケーブルTVの英語放送だった。タイでは一種の紳士協定があって、英語メディアは外国人向けだからという理由で、政府のメディア統制から外れているため、英語メディアには言論の自由があるためだ。

面白いのは英語放送でありながら、反タクシン集会の生中継で、なぜか同時通訳を入れるのを「忘れて」しまっていることである。